ただ見つめる

瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま)という島に、この宇宙っぽく、そしてよく見ると水滴のような形の建築物は存在しています。

その名も豊島美術館。
美術館というからには、この中に何点かのアートがあるんだろうなという想像は、見事に裏切られました。

すぐ目の前にこれが見えるのに、わざわざ迂回して5分くらい森の中を歩いてようやく入口にたどり着きます。
その頃には既に、木々や木漏れ陽や踏みしめる土に身体が馴染み、自然と対峙する準備ができつつあることを感じました。
そして入口から中をのぞいてビックリ!
そこは、40m×60mの真っ白な大空間。
柱などは1本もなく、天井の高さは端に行くにつれて低くなっています。
まさに、落ちたしずくの中に入ったような形。

何も飾られていないそこには、ただ、天井に大きな楕円形の穴が2つ。
そこからは空や近くの山の緑が見えます。
穴の下には昨日降った雨が水たまりを作っていて、
でもよく見ると、それだけでなく、所々床から水が湧き出ては流れていました。
広い空間の中では、お気に入りの場所を見つけ、座ったり寝転んだり瞑想したり。
皆自由な時間を過ごしていて、まるでモスクのような印象でもありました。
私も、ひんやりした床に座って穴から外をぼんやり眺めていると、鳥の鳴き声が聞こえてきました。

天井の穴の端から長い紐がぶら下がってゆらゆらと揺れているのを見て、風を感じます。

床に溜まった小さな雨粒は、風のせいなのか人が歩く振動でなのか、急に動き出して、
まるで生き物のようにつるつると動き流れ、他の溜まりと合流して更に流れて・・・
をあちこちで繰り広げています。
動きは予測ができず、飽くことなく何時間でも見続けていられそうでした。
そこでふと、あれ、私、今何も考えていないな。
目の前の水や、風や鳥の声しか感じていないな、ということに気づきました。
自然の前にはちっぽけな存在、とか、そんなことすら感じない、
ただ、自然と共にそこにいる。
それだけの感覚でしたが、それまで色々と頭を悩ませていたことがすっかり消えてしまったのでした。
期せずしてマインドフルネス。

そういえば、最近は炎をひたすら見つめる動画が流行っていると聞きますが、
この水滴の流れの動画、あったら欲しいなあ。
残念ながら作品は撮影不可でしたし、ものすごく緻密に計算された設計のようですので、このような水の動きはここ豊島美術館でしか見られないのかもしれません。
強烈なインパクトであることは間違いありませんので、ぜひ皆さんも騙されたと思って、一度出かけてみてはいかがでしょうか。
(北野)